203.
ここまでのあらすじ
師団名人戦に出場した麻雀少女たち。財前カオリと井川ミサトは見事に勝ち抜いて準決勝まで生き残っていた。
付喪神は大人になると消える。そんな話をマナミから聞いたカオリはなんとしても勝利してwomanに強くなった自分を見せてから二十歳になりたいと思っていた。カオリの切なる願いは叶うのか!?
【登場人物紹介】
財前香織
ざいぜんかおり
通称カオリ
主人公。最近おしゃれに目覚めはじめた女子大生プロ雀士。所属リーグはC2。女流リーグはA所属。
読書家で書くのも好き。クールな雰囲気とは裏腹に内面は熱く燃える。
柔軟な思考を持ち不思議なことにも動じない器の大きな少女。
神の力を宿す。
日本プロ麻雀師団順位戦C3リーグ繰り上げ1位
財前真実
ざいぜんまなみ
通称マナミ
主人公の義理の姉。麻雀部部長。
攻撃主体の麻雀をする感覚派。ラーメンが大好き。妹と一緒に女子大生プロ雀士となる。
神に見守られている。
C2リーグ所属。女流リーグA所属。
第36期新人王戦3位
第5期女流Bリーグ優勝
第30回雀聖位戦優勝
佐藤優
さとうゆう
通称ユウ
兄の影響で麻雀にハマったお兄ちゃんっ子。
誘導するような罠作りに長けている。
麻雀教室の講師をしつつ大学に通う、アンたちの頼れるリーダー。
第1回UUCコーヒー杯優勝
第30回雀聖位戦準優勝
竹田杏奈
たけだあんな
通称アン
テーブルゲーム研究部に所属していた香織の学校の後輩。佐藤優の相棒で、一緒に麻
213.第十一話 威嚇ポン(んもう! やっかいな体質ね。冷静な私にしか使いこなせないわよこんなの)《……いま使いこなせてなかったですけど》(大会準決勝の役満テンパイで冷静になれは私でも無理でした)《フフッ! いや、笑い事ではないですね。申し訳ない。私のせいで》(そんな、気にしないで。こんなのは笑ってくれればいいの。それにまだ始まったばかり! 私なら大丈夫だから)《そうですね、がんばって!》 しかし、その後カオリにチャンスはしばらく訪れず、苦しい展開のまま耐えているのが精一杯だった。役満テンパイという大チャンスを逃しただけあり、そう簡単に回復の機会は来てくれない。(くそぅ。このままじゃジリ貧だ。かと言ってアガる術はない。せめて、足を引っ張るような威嚇くらいしなければ…… 二回戦目で2位争いには参戦できるように)「ポン!」打9『おっと! 財前香織この形から上家が切ったドラを叩きました!』カオリ手牌 ドラ⑧二四六②③⑥1188(⑧⑧⑧)『どうするつもりなんでしょう? いくら頑張っても最速でタンヤオのサンシャンテンですが』『これは…… 威嚇ですね。足止めです。誰にもアガらせないぞと言うことでしょう。ドラ対子の手をアガリが遠いことから足止めとして利用するとは…… たいした娘だ』『上家の薬袋選手は緻密な打ち手ですからドラポンされては無視できないでしょう。1番整った手格好でしたが――』薬袋手牌三三四伍①①③④45788 白ツモ『白を引いてしまいまし
212.第十話 準決勝B卓開始! 今日は師団名人戦準決勝B卓開催日だ。出場選手財前香織プロ左田純子プロ久本一夫アマ薬袋光太郎(みないこうたろう)アマ アマチュア枠から出ていた雀荘『富士』の元従業員である久本カズオがなんと準決勝まで残っていた。あの、勝てないのを理由に退店したカズオがである。『小林プロの予想を聞いてもいいですか?』『え、そうですねー。……分かりません!』『そんな!』『いや、だって分かんないですよ。財前プロはまだ新人ですけど技術は充分にあります。左田プロはいま勢いがある人の1人。久本一夫さんはアマチュアの試練を勝ち抜いている猛者ですし、薬袋さんは芸人とは思えない緻密な麻雀の打ち手、こちらも芸能人枠で優勝してきた実力は本物です。どっち見ても強者で全員勝ちそうですよ』『まー確かに分からないですよね。実績ある大会決勝の常連プロたちが今回は全員準々決勝あたりで敗退しましたからね。本命の河野プロも34期師団名人の古川プロも準々決勝敗退してますし』『まあ、一番怖いのは結局、左田プロじゃないですかね昨年雀聖位についてからの勢いは凄いです。リーグ戦も好成績を叩いて昇級しましたからね』『じゃあ私は財前プロに1票』『ありえますね。彼女は強いです。っと、そろそろ時間になりますね。選手たちは揃っています』『それでは! 時間になりましたので対局開始して下さい』「「よろしくお願いします!!」」 ゲームを開始するやいなや東1局からカオリに勝負手が来た。南家カオリ手牌 5巡目一一二二二八八八11589 9ツモ ドラ②
211.第九話 カオリたちの青春「「かんぱーい!!」」 カオリたち麻雀部はミサトの決勝戦進出を『グリーン』で祝っていた。今日は特別にいつもは頼まないコーヒーフロートだ。「やー、やっぱりフロートはソフトクリームよりバニラアイスに限るわ。このアイスと氷が接触してる部分にシャーベットが出来上がって、それがコーヒーとすごく合うのよ。わかる?」「あー分かる! そこ美味しいよね!」 タイトルホルダーだろうがプロ雀士だろうが女の子はアイスが好きなのだ。ワイワイワイワイ あーだこーだ騒がしいカオリたちだが今日はもうお客さんがカオリたちしか居なかったので容赦なく騒いだ。こんな時間がカオリたちの青春だった。楽しい。心から好きだと思える仲間たちと今のこと、未来のこと、思い出話。好きなことを好きなだけ話す時間。 こんな風にwomanともずっと話していられるものだと思っていたのに。(大人になんてなりたくないな……)《なにを言ってるんですか。そんなの無理ですよ。生きている以上必ず大人にはなります》(そうだね。分かってるよ)《カオリ、幸せな大人になりなさい》「カオリー。私、明日早いからもう帰るよー」「あっ、待ってよマナミ~。一緒に帰ろうよー」「あんた達姉妹は本当仲良しね。よし、私もそろそろ帰ろう」そう言ってミサトも精算を済ませた。「みんなもあまり遅くならないようにね。じゃお先に」「バイバーイ」「さよーならぁ」────── 駅までの帰り道、カオリたちはさっきの話の続きをしていた。
210.第八話 準決勝A卓決着!(や、や、やられた! やらかしたーー! トイトイ三暗刻!? ここに来てツモスーってあんた。伍萬切っとけば良かったかー。三色なくてもトップだもんね。……まあ、伍萬の方が安全なんてそんな根拠は場にひとっつも書いてないから無理なんだけどさ…… そもそもオーラスはアガリやめなしだから打点はあった方がいいし……)そう思うとシオリはある人の書いたブログ記事を思い出していた。◆◇◆◇“麻雀にはすべき選択をしても負ける時があります。それでもいい。ミスして負けたのでなければ。私は勝利よりも正しい麻雀を追求していきたい。正しい選択正しい攻め正しい鳴き正しいオリ正しいオリによるオリ打ちなら、それすら美しい行為に私は思うライジン”◆◇◆◇(ライジンさん。私、間違ってないよね。私は正しいよね。私の麻雀は…… 美しかったでしょう?) シオリは『ライジン』というブロガーの記事をいつも参考にしていた。いつのまにかシオリにとってライジンは心の師匠のような存在になっていたのだ。これに勝ったら決勝進出をダイレクトメールで報告したいと思っていたが、今負けた。(だが、美しく打てたんですよと。そう報告しよう――) シオリはカメラの前だったので悔し涙を堪えてなんとか微笑む。うまく笑えてない気がする。表情も作れないくらいショックだった。すると――「待ってください」 そう言ったのは豊田だった。「みなさん忘れてませんか
209.第七話 新田の実力 新田は自分の実力を分かっていた。そんなには強くないと。普通の人より少しは勝てるがプロフェッショナルの連中には勝てない。そんな事は知っていた。今だって、若手の注目株な豊田プロや女王シオリ。そして新人王ミサト。どちらを見ても真のプロ選手であり自分にとって格上の打ち手であることは分かってた。(このような舞台に立てる機会はきっとこの先、生涯無い。おれの実力じゃあ準決勝に居るだけでも僥倖なんだ。もうこうなったら勝ち負けじゃない。たった一筋でいいからコイツらに生涯記憶に残るような深い爪痕を。新田忍という雀士の底力を…… 一撃だけでも、見せつけたい……!) 新田の願いは届いて次局、親番の新田に手が入る。タンヤオドラ3を3巡目にメンゼンテンパイ。(落ち着けー。まず落ち着けー。今なら直撃で取れる可能性まであるんだ。リーチはやめとこう) そっと牌を縦に置く新田。 すると。思惑通りシオリから直取りが決まる。「ロン。12000」「はい(まだ4巡目よ!?)」 次局はミサトが2000.4000は2100.4100をツモり、激しい戦いとなる。「ロン!」「ロン!」「ツモ」「ツモ」「ツモ!」「ロン」────── 荒れに荒れた準決勝二回戦オーラス。ついに白山シオリは総合点数微差トップまで落とされていた。何か失点すれば二着落ち、新田には満貫放銃で三着落ちとなる所まで落ちてきてしまった。(何でこうなったんだろう。私はしっかりと守っていたはずなのに……)シオリは頭が痛くなって
208.第六話 手牌占い 一回戦でシオリに突き抜けられたのでこれをどうするかミサトは考えていた。(総合二着までになれば通過するわけだけど、どんな作戦で行こうかしら…… とりあえず現状私は二着ではある。攻めるしかない三着四着を叩くか? いや、二着目に放銃ならよしとするトップ目を狙う手もあるな。まあ、なんにせよ。弱気じゃダメだ。白山詩織を捲るつもりで行こう) シオリはゲーム回しに長けている展開勝ちするタイプの打ち手である。展開コントロールを得意とする打ち手にとって総合二着までが勝ち抜きの二回戦方式ゲームで一回戦にリードしているなんてのは完全なる勝ちパターン。それはミサトも理解していたし豊田プロも女王シオリを研究していないはずはなく、豊田はどうやって二着に選んでもらおうかと考えていた。シオリは一回戦でダントツになったし、捲る必要のないゲームならそこは二着でいいはずだ。 しかし、だからこそこのゲームでミサトはトップ通過を目指した。その読み違いがシオリの足元を掬って強烈な右ストレートが一発決まるのではないかと考えた、イメージとしてはそういう作戦だ。 そして、もう1人トップ通過を目指した奴がいた。 新田忍だ。 なんでとか、1位通過狙いは無意味とか、どうでもいい。新田はただ勝ちたかった。歴史あるこの師団名人戦の準決勝に来たこと。それが新田の魂を燃え上がらせていた。まして一回戦はラスだ。もうどうせトップを取るしかない。どうせなら強烈なトップで1位通過してやる。そのくらいの気概でいた。細かいことは考えない。勝つ! ただそれだけ。 この2人のトップ狙いが計算女王と言われる白山シオリの読みを大きく狂わせることになるのだった。そう、勝負とは相手の注文に乗らないのが一番の必勝法。その事をシオリはこのゲームで学ぶことになる。 準決勝A卓二回戦、間もなく開始。────